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扇町創造村(OCV:Ogimachi Creative Village)】構想について
3.立ち上げとプロモーション
 扇町創造村構想の意義は、現在すでに存在している多様な動きに総括的な名称を与え、それら活動に統一した意味を与えることにあります。この地で活躍する多様な創造者たちが地域の力と自分たちとを再発見し、先端的な創造活動を強化していけば、外部からの注目度も向上し、仕事機会の発生などよい循環が形成されていくと考えられます。
 扇町創造村の運動には、具体的な建物とか、公的な組織とかはかならずしも必要ではありません。多くの人がこの運動の意義を理解し、創造村の実現をひとつの政策課題としてそれぞれの持ち場でできることに取り組めば、次第に大きな成果を得られると思われます。自然発生的・即興的な色彩の強い運動であるため、今後、この運動がどのように展開していくのか想像の難しいところもありますが、多分にわたしの希望的な観測を含めて簡単に触れてみましょう。
(1)理解と認知のフェーズ
 扇町創造村構想は、地域ぐるみのインキュベータという新しい概念を提唱するものです。その意義・目的・可能性などについて、地域社会の理解を得ることが第1の重要ステップとなります。そのためには、まず以下のような取組がかんがえられます。
 1)少人数のグループで、運動の骨格・目標・使命などについて大枠を確認する。
 2)芸術村運動の担い手となる各分野の指導的人物に、この運動の意義と必要性を説明し参加を呼びかける。
 3)新聞記者・雑誌編集者・テレビティレクタなどに対し、運動の意義と可能性について説明し、理解を得る。
 このフェーズの取組はすでに始まっています。大阪市立大学創造都市研究科単独によるさまざまなシンポジウムが計7回、宝塚造形芸術大学専門職大学院デザイン経営研究科との共催によるもの2回、大阪青年会議所との共催によるもの1回など、のべ10回にわたるシンポジウムなどで扇町創造村構想について報告・説明しました。北を活性化させる懇話会での講話や、大阪市北区地域開発協議会と財団法人大阪市北区商業活性化協会共催の新年互例会における講演など、地域の依頼による講演依頼にも応えています。もちろん、個人ないし小さなグループ相手にも機会のあるごとに説明させてもらっています。
 そうしたなかで新聞などにも記事として取り上げてくれてました。「関西再生へ芸術村」(2004.4.15朝日新聞)、「芸術都市キタを考える」(毎日新聞、2004.6.4)、「動き出した芸術村」(読売新聞、2004.8.29)のほか、2005年2月の「市政新聞」ではトップで、「印刷の日本」では2005年1月5面に渡って特集を組んでくれました。
 今年に入ってからは、2月2日に扇町芸術村(仮称)第1回懇談会がメビック扇町において開かれたあと、第三回以降は「扇町芸術村議会」という名称で定期的な会合がひらかれています。これは、創造村構想を実現する構想を練るためのものであるとともに、参加者の情報交換の場にもなっています。交流の場や新しい動きを知るために北区内のさまざまな場所を会場としています。村議会などと大げさな名前になっていますが、
 現在決まっていることとしては、10月22日の夜、中津祭りにおいて「扇町芸術村村議会」の公開村議会が開かれます。一晩気楽に議論しようというものです。
(2)地域の可能性を外部に紹介するフェーズ
 扇町創造村運動の目指すものは、この地域に創造活動への新しい需要を呼び込み、創造活動を職業として生きていくことのできる基盤を形成することです。
 そのためには、この地域が日本において注目される創造活動が行われ、優れた才能が集まっている地域であると地域の外部から認知されなければなりません。そのために、イベント的なものを含めて、外から(あるいは専門家外の人から)この地域のポテンシャルが見えるようにしていかなければなりません。
 たとえば、以下のような仕掛けが考えられます。
 (1)「芸術と経済接合」シンポジウム
 芸術活動・創造活動が将来の産業として重要なものであることを広く社会に知ってもらうため、経済界のオピニオン・リーダと芸術活動のオピニオンオン・リーダとの対話と討論の機会を創出する。
 (2)「境界を越える」シンポジウム
 表現様式・立場・主張を超えて、気鋭の人材による相互討論。いま、創造者はなにを考えて表現にとりくんでいるか。表現は、現代社会になにを意味するのか。新しい議題を提起し、先端の思想の交流を試みる。
 (3)冊子・単行本などの編集・出版
 北区のポテンシャルを知ってもらい、創造村運動にも理解を得るために、この地域における創造活動の集積や注目される動きなどを編集・出版する。この地域の構造と可能性を外から見やすいものとすることが地域内部の認識を深めることにもなる。
(3)独自の情報回路を構築するなど社会のインフラを整えるフェーズ
 創造的な地域として外部から注目されるためには、小数の個人がスターとなるだけでなく、新しい芸術様式や傾向などを生み出し、それを深化させることのできる地域にならなければなりません。それを可能にするのは、創造者・需要者・批評家の3者を結ぶ情報回路です。新しい傾向の小さな差異に気づき、その傾向を拡大していくのは、制作者や創造者だけではありません。批評家やユーザの判断が重要です。大阪に雑誌が少ないことを考えれば、意識して3者をつなぐ試みが重要です。そのためには、場の設計を含めた適切な仕掛けが必要となります。
 まずは、各地のカフェなどで、芸術論議が侃侃諤諤となされるような雰囲気を作りださなければなりません。自然発生的にそのような文化が育つことを期待すると同時に、場やメディアのうまい構造を作りださなければなりません。これは社会のインフラストラクチャー作りであり、行政の関与・支援が生きる場面です。
 例として、小学校の跡地利用・建物利用が考えられます。現在、北区内にもいつくかの小学校が廃校になっています。そのうちの一校をエディターズ・ハウスとするとか、レコード図書館とするなどのことが考えられます。
 エディターズ・ハウスの場合、弱い出版機能が強化されるばかりか、この地域の多様な芸術活動・創造活動をひろく紹介する役割が強化されます。編集者は、新しい話題・議題のよき提案者であり、人材の発掘者でもあります。人口に占める編集者の比率が大阪は東京に比べて極端に少ないと考えられ、これが大阪から人材を世に送り出せない原因の一つともなっています。東京都区内に事務所を構えるには、家賃だけでもかなりの必要が掛かります。エディターズ・ハウスを建設して、低い家賃で貸すことができれば、東京から移転する編集者も出でくると考えられます。工場誘致ほど一挙に大きな雇用は生まれませんが、創造産業を支えるインフラストラクチャーとしては重要なものです。
 レコード図書館は、大規模なものは全国にも例を見ません。音楽の著作権ビシネスの基礎ともなるものであり、この方面でも大きく遅れを取っている大阪としては起死回生の策となる可能性があります。パリのシテ・デ・ザール(芸術家向けアトリエ付きマンション)の大阪版を設けるといった施策も考えられます。
 廃校などを利用すれば、大きな橋を掛けたり、道路工事をしたりするのに比べてはるかに低い費用で、大阪が必要とする産業転換を助けることができます。レコード図書館の理想的な形としては、民間の自発的な運営主体に市が場所や初期費用を助成するというものでしょう。
(4)世界から人をひきつけるフェーズ
 この地域が新しい芸術様式や傾向などを次つぎと生み出すようになれば、扇町創造村は必然的に外部の注目を引く存在となります。その創造活動・芸術活動は、日本はもちろん、アジアや世界の各地から注目され、世界の各地からこの地域に来てみたい、住んで創造活動をしたいという人たちが出てきます。大阪北区は世界的に吸引力のある町となることができます。
 そのような魅力の中心は、あくまでもこの地の先端的な創造活動であり、芸術活動です。しかし、遠くからの人を集めるためには、副次的な仕掛けも重要です。そのような分野で北区の多くの人々が暮らせるようになります。多くの創造者が住む町であることがこれらの町づくりを可能にする条件であることにも注意してください。次のような例が考えられます。
 (1)ファッション・ストリートの創造
 (2)観劇とライブの街
 (3)楽しい食事の街
 (4)歩いて回れるブランド・ショップ街
 (5)作品や原画の町・創造現場の見える街
 こうなれば、創造村運動は、芸術や創造活動に従事するひとたちだけものではなく、この地域に住むすべての人々が生き生きと暮らしていける町をつくりだすことにもなります。
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